6.「豊郷小学校の歴史と未来を考える会」趣意書
滋賀県犬上郡豊郷町石畑にあります豊郷小学校、歴史と伝統があり優れた文化財である建物が、いま取り崩されようとしています。こうした時に立ち止まって、この豊郷小学校の歴史を学び、今後のあり方を考える会を作っていきたいと考えたのです。
豊郷小学校とは
豊郷小学校校地は旧中山道に面して、約1万2000坪の広さがあり、前面には実習農地があり、敷地中央にある校舎は本館中央部が3階で、両翼は2階建てになって左右にひろがり、南北に講堂と図書館が配置されています。左右対称の堂々とした外観は、初めてこの建物を見る者をして、これが小学校かと感嘆させるほどの威容を見せています。
今から64年前、戦前の1937年(昭和12年)に豊郷小学校はできあがりました。この敷地・建物は優れた先人の郷土に寄せる深い思いがあって生まれた建物です。この優れた先人とは古川鉄治郎氏その人です。彼は1887年(明治20年)に本校を卒業され、大阪に奉公に出ていかれます。そして同じ豊郷出身の伊藤忠兵衛商店で奉公され、苦労されて後にその店の支配人となります。こうして得ることになったその私財を、郷土豊郷に寄贈されてできあがったものです。古川氏の郷土にかける深い思いは、当時日本でも一流といわれたヴォーリズ設計事務所に託されます。
文化的価値の高い建築物
ウィリアム・メレル・ヴォーリズ氏の設計による建物は、全国の大学、公共施設、デパートなど多数に上りますが、滋賀県内で身近な所では近江八幡市に多く残されています。市内池田町にはいくつかの私邸が残されていますし、八幡商業高校本館(豊郷小学校建築3年後の建物)、近江兄弟社学園などがあります。(写真集『日本人を越えたニホン人メレル・ヴォーリズ』びわこ放送出版より)
ヴォーリズ氏の設計した豊郷小学校の配置図をみますと、その両翼は、南側に「知」としての図書館があり、それと対面するように北側には成長を確かめる「セレモニーの空間」としての講堂が配置され、その中心部が本館で、そこは人格を磨く場となっています。校舎の前には実習田と実習畑が広がり、また、北西には飼育場があります。ここには農と学習を結合した学校の姿が意識されていたと見て取れます。また、北側には当時中学校に進学しない者のための学習の場として、男女の青年学校が造られています。子どもから青年までの成長の場としての学校が構想されていたようです。東側は運動の空間です。北東部には背の高い植物が植えられ、広い運動場があり、プールと体育館があるという配置になっています。また運動場と校舎の間は緑地帯が広く取られ、ここは野菜や草花を育てる実習の場であると同時に、運動場からの砂埃などが入らない緩衝緑地となっています。また、玄関正面に立ちますと噴水があり、正門から建物までのアプローチは銀杏並木も美しく、暖かい家庭的な学校空間を作りだしています。こうしてみますと、この小学校の敷地全体が人を育てる理想郷となるようにという理念のもとに建設され、その願いが生きてできていることがわかります。
学校を視察して
ところが、今この建物を取り壊してしまおうとする動きが起こっています。
私たちは、去る8月31日豊郷小学校を訪ね、校長先生の案内で校舎を視察してきました。ここには工学博士の2名の方々も同行していただきました。校舎に入りますと懐かしい階段手すりに取り付けられた真鍮のウサギとカメの黒光りした姿に会いました。廊下、教室、そして講堂、図書館と見て回りました。この結果、建築構造が専門の西澤英和工学博士の意見では、この建物は構造上も大丈夫であるというお墨付きをいただきました。廊下や壁はメンテナンスが必要であるが、建築物そのものに構造的に問題はない、丈夫な物ですと。さらに講堂や図書館も必要な手を加えることで建設当時の美しさが甦ってくるでしょうとおっしゃっていました。「今日までこうした文化財的にも優れた建物のメンテナンスがどうしてできなかったのでしょう」という耳が痛い話もされていました。
一方、この豊郷小学校全面改築という動きは、建物が古くなってしまい構造上問題が出ているからなどという理由を挙げているようですが、それは本当なのでしょうか。正確な調査を実施し、その結果の詳細な調査結果の資料を出していただいて、専門家も交えて検討していきたいと考えています。
しかし、専門家も指摘するように豊郷小学校校舎はそのような問題がある建物とはとても思えません。ヴォーリズ氏の設計した建物は構造についても十分配慮されているという例があります。私たちは9月11日にヴォーリズ氏建築を研究されている山形政昭工学博士の案内で大阪を訪ねました。豊郷小学校より2年前(1935年)に造られたプール女学院の本館がその例です。この建物は昨年全面改修され、その際に3階建てから4階建てに増築されています。また近くにあります大阪女学院学校、この学校にある講堂(チャペル)に入ると豊郷小学校の新築の講堂に居るような雰囲気でした。ここは改修されて、音響装置、空調設備、プロジェクターなど最新の機材をとりいれられており、厳かななかにも、品と歴史性を感じる建物となっています。土台、構造ともとりわけしっかりしているのが彼の設計した建物です。八幡商業高校の本館も同じ時期の建物です。
「豊郷小学校の歴史と今後を考える会」へのご参加をお願いします
この建物は、当時から「東洋一の小学校」と呼ばれ、高価な材質と技術を結集し駆使して創りあげられました。また確かな教育理念を持った設計士による教育施設であり、かつ文化財としても価値の高い建築物です。
ただ古くなってきたから壊して新しい物にしていく価値観で進めるだけでは、あまりに大事な物を失ってしまうのではないでしょうか。豊郷小学校の建物には宝物がたくさんあります。例えば楢の木の廊下、階段の手すり、それにドアに取り付けてあるノブなど、大きな物から小さな物まで今日では手に入らない資材が数多く残されていますし、各教室の窓側にある研ぎ出しによる台の丸形になった切り取りなどは、手間と暇かけた貴重な技術の結晶だとの専門家から指摘があります。壊してしまえば産業廃棄物となってすべてが失われてしまいます。こうした宝物を保存し、現在の教育の求められる最新の機材を取り入れることで、現在建築では建てることのできない、超えた価値ある建物が再生されるのではないでしょうか。
祖父母も、親も、そして自分も同じ外観を持つ校舎で学べるということは他の地域では叶わぬ夢です。また、ふるさと遠く離れて暮らしている人にとっても、豊郷小学校の校舎はいつまでも古里のシンボルとして心に焼き付いているという話も聞かれます。拙速にことを進めるべきではなく、熟慮して進めることが大事だと考えます。
そして、子どもと親だけでなく地域とが共生する学校など、これからの学校の在り方とも繋げて十分に検討し、今後の理想郷としての学校を創造的に造っていくための議論を始めたいと考えているところです。
以上のような趣旨で「豊郷小学校の歴史と今後を考える会」の発足を呼びかけます。ご参加よろしくお願いします。
入会申込書
アピール署名 apeal english
浄財募金のお願い 2001年9月
呼びかけ人
竹内秀典(豊郷町在住、豊郷小学校同窓会)
本田清春(豊郷町在住、豊郷小学校同窓会)
